Lean と DevOps の科学を読んだ

この本の主張

この本のキーメッセージは以下の通り。

ソフトウェアデリバリのパフォーマンス向上はビジネスの競争優位性に好影響をもたらす。ソフトウェアデリバリのパフォーマンスは Four Keys と呼ばれる4指標によって計測される。

  • リードタイム
    • ファーストコミットから本番リリースまでの時間
  • デプロイ頻度
    • 時間あたりのデプロイ回数
  • 平均修復時間(MTTR
    • インシデントが発生してから復旧するまでの平均時間
  • 変更失敗率
    • 本番稼働に失敗した数 / 本番リリース数

この本がすごいのは、経験論ではなくアカデミックな調査によって一般化されているところ。つまり、こうした指標の向上が組織にとってプラスであると根拠を持って主張しているのだと t_wada さんが Podcast で仰っていた。

open.spotify.com

読んだきっかけ

読もうと思ったのは開発生産性カンファレンスへの参加がきっかけ。今現在チームを束ねる立場に就いている訳ではないが、開発生産性を上げるためのヒントを求めて参加した。ちなみに参加時点では Four Keys もチームトポロジーも知らなかった。

dev-productivity-con.findy-code.io

読んでみた感想

組織や開発生産性の改善に向けて取り組む"入り口"として最適な本だと感じた。ソフトウェアデリバリのパフォーマンス改善が結果としてビジネスにも好影響をもたらすという事実は、これから改善に取り組む人にとって強力な後押しになる。

イマイチな点は、理解の難易度がかなり高かった。というか腹落ちしてない箇所のが多い。章同士の繋がりが分かりにくく、全体像の把握がとても難しかった。その意味で本書は開発生産性の改善に向けた"入門本"としては相応しくないと思う。

印象に残った言葉

>パフォーマンスの改善と、安定性と品質の向上との間に、トレードオフの関係はない (P.26)

リリース速度を上げるなら、品質を犠牲にしなければいけないというのが固定観念になっていたが、事実として、リリース速度が高い組織は品質も高いのだ。

>DevOps のプラクティスを実践すれば組織文化に好影響を与え、改善しうる (P.38)

こう言い切ってくれるのは勇気をもらえる。

>関係者の思考方法を変えることではなく、関係者の言動、つまり皆が何をどう行うかを変えること (P.48)

先に変えるのは思考ではなく行動であると。そして行動を変えた結果に思考が追いつくということだろう。最近 Timee 社の発表でも似たようなことが話されていた。

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>個人と組織の価値観の一致度を上げればアイディンティティを強化でき、パーンアウトを緩和できる (P.127)

仕事の中でも個人と組織の価値観一致の重要性はひしひしと感じている。価値観一致を果たすツールとして Mission/Vision/Value や理念があったりする。逆にそれらツールの浸透がおざなりになっているとここはかなり難しい。

>リーダーこそがその権限や予算を使って変革を行えるのである (P.141)

当たり前のことなのだけど、やはり権限を持たないメンバー層が変革を行うのはハードルが高いよなと。もちろん発案は大切だが、実行権が伴わないので発案止まりになりがち。権限の委譲が進んでいないなら、ハードルを下げるための工夫がないとボトムアップな改革は望めないなと改めて感じた。